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ステラ マッカートニーのバッグには、革が1グラムも入っていません。
ファー(毛皮)も、スキン(皮)も、フェザー(羽毛)も。それどころか、動物由来の接着剤(ニカワ)すら使わない。2001年の創業初日から、ずっとそうです。
この一点が、お手入れのすべてを決めます。
革の道具が、まるごと出番を失うからです。革用クリームも、ミンクオイルも、デリケートクリームも、このブランドには使いません。では何を使うのか。公式は、驚くほど具体的に書いています。
ステラ マッカートニーとはどんなブランド?
公式の「About」には、こう書かれています。
2001年、ステラ マッカートニーは自身の名を冠したラグジュアリー ファッション ハウスを立ち上げ、同年10月にパリで最初のコレクションを発表しました。生涯を通じてベジタリアンであるステラは、創業初日から、レザー、フェザー、スキン、ファーをデザインに使ったことが一度もありません——当時も今も、革命的な姿勢です。
ステラ マッカートニー公式サイト「About Stella McCartney」より(筆者訳)
お母さまから受け継いだものです
公式は、彼女の母リンダ・マッカートニーについて、こう紹介しています。写真家であり、ベジタリアンであり、動物の権利の活動家。その価値観と美への感性が、今も娘を動かしている、と。
ちなみにお父さまは、ポール・マッカートニーです。公式サイトは「公の場では伝説的で、家では普通だった、つくり手の家族」という書き方をしています。
経歴も押さえておきます
- 1995年 セントラル・セント・マーチンズ卒業
- 1997年 パリのクロエのクリエイティブ・ディレクターに就任
- 2001年 自身のブランドを設立
- 2004年 adidas by Stella McCartney 開始
- 2009年冬 ファラベラが登場。手編みのコットンとダイヤモンドカットのチェーンが特徴
- 2017年春 初のメンズ
- 2023年 CBE(大英帝国勲章コマンダー)を受章
「使わないもの」が、年々増えています
公式のサステナビリティ年表を追うと、禁止したものが並んでいます。
| 年 | 使うのをやめたもの |
|---|---|
| 2001 | レザー、ファー、スキン、フェザー、動物由来の接着剤(ニカワ) |
| 2010 | PVC(ポリ塩化ビニル)を完全禁止 |
| 2013 | アンゴラ |
| 2016 | ヴァージンカシミア(以降は再生カシミア) |
| 2018 | モヘア |
2010年のPVC禁止は、覚えておいてください。「ヴィーガンレザー=安いビニール」と思っている方がいますが、このブランドのそれはPVCではありません。後で素材表示を見ます。
ただし「ヴィーガンブランド」ではありません
ここはよく誤解されています。公式のFAQに、「まだウールを使っているのはなぜ? ヴィーガンブランドだと思っていました」という質問が、そのまま載っています。
公式の答えを要約すると、こうです。
- ウールは天然で生分解する繊維であり、断熱性に優れた技術的な素材だから使う
- 動物性の繊維に環境負荷があることは認めている
- だから農場までたどれること(トレーサビリティ)を重視し、NATIVA™やZQなどの再生型ウール、RWS認証ウール、リサイクルウールを使う
- シルクも同様に使っています。つまり、動物を殺して得る素材(革・毛皮・皮・羽)は使わないが、ウールとシルクは使うブランドです。
これはお手入れの話に直結します。ウールとカシミヤが入っている以上、その扱いは避けて通れません。
ちょっと詳しく・・・
NATIVA™(ナティバ)
南米(アルゼンチン・ウルグアイ)産メリノウールの認証制度。動物福祉・環境・社会基準を第三者機関が審査した牧場のみ使用できます。
ZQ(ゼットキュー)
NZ発祥のメリノウール認証。動物福祉・環境・労働環境の3基準をクリアし、ミュールシング(羊の皮膚を切除する虫よけ処置)フリーであることが必須条件。
RWS認証ウール(Responsible Wool Standard)
農場から製品まで全工程を追跡できる国際認証(Textile Exchange運営)。土地・羊の福祉・農場労働者の権利を包括的に審査。
リサイクルウール
廃棄ウール製品や生産端材を回収・再繊維化した素材。新たに羊を飼育する必要がなく、水・土地・CO₂の消費を大幅に削減。
資本のうごき
25年のあいだに、3回変わっています。
- 2001年 ケリング(当時グッチグループ)と50:50の合弁で設立
- 2018年 ケリングの持ち分を買い戻し
- 2019年 LVMHと提携(ステラが過半数を保有)
- 2025年1月 LVMHが持つ49%を買い戻し、独立
公式の年表にも「2025 Stella McCartney becomes an independent fashion house」と書かれています。ステラ本人は、LVMHのサステナビリティ担当として助言を続けるとのことです。
ブランド基礎データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 2001年(同年10月にパリで初コレクション) |
| 国 | イギリス・ロンドン |
| デザイナー | ステラ・マッカートニー |
| 使わない素材 | レザー、ファー、スキン、フェザー、動物由来の接着剤、PVC |
| 使う素材 | ヴィーガンレザー、再生ポリエステル、オーガニックコットン、ウール、シルク、再生カシミア |
| 代表アイテム | ファラベラ、ライダー |
| 資本 | 2025年1月から独立系 |
| 家庭での洗濯 | バッグは拭くだけ/服は品質表示による |
| お手入れ難易度 | ★★★☆☆ やることは少ない。ただし「やってはいけない」が多い |
【クリーニング師が解説】ファラベラの素材表示を見てください
公式の商品ページに載っている、ファラベラ ミニ トートバッグ(179,300円)の素材表示です。
- 主な素材:ポリエステル55%、GRS認定NewLife™リサイクルポリエステル45%
- トリム:無溶剤ポリウレタン70%、リサイクルポリエステル30%
- レース:GOTS認定オーガニックコットン100%(コーンスターチワックスコーティング)
- ハンドル/ストラップ:リサイクル真鍮100%
- ボディチェーン:アルミニウム100%
- メダリオン:ザマック100%
- マグネット:ステンレススチール100%
8種類あって、革は1つもありません。
そして注目していただきたいのが、あの有名なチェーンを縁取る編み込み部分。オーガニックコットンに、コーンスターチのワックスを塗ったものです。ビニールでも革でもありません。
革用の道具は、1つも使いません。
乳化性クリーム、ミンクオイル、デリケートクリーム、ラナパー。どれも油分を革に入れるための道具です。ここには革がないので、入る先がありません。塗ればシミになるだけです。
公式のお手入れは、たった数行です
ファラベラのページに書かれている全文です。
素材には少量の脱塩水を含ませた柔らかい湿った布を使用します。アイロン掛けも同様に行ってください。バッグを乾燥させます。バッグの表面に傷がつくので、こすらないようにしてください。このアクセサリーは非常にデリケートな素材で作られているため、取り扱いに注意し、鋭利な物やジュエリー、粗い物に触れないようにしてください。使用しないときは常に保護袋に収納してください。
ステラ マッカートニー公式サイト 商品ページ「商品のお手入れ&サイズ」より
4つに分けて読み解きます。
① 「脱塩水」とは、精製水のことです
ドラッグストアで買える、あの精製水です。なぜ水道水ではだめか。水道水にはミネラルが溶けていて、乾いたときに白い跡として残るからです。濃い色のバッグほど目立ちます。
コンタクトレンズ用ではなく、「精製水」と書かれたものを選んでください。
② 「こすらない」
公式が理由まで書いています。表面に傷がつくから。汚れを落とそうとして往復にこするのは、いちばんやってはいけない動きです。押さえて、写し取る。これだけです。
③ 「鋭利な物やジュエリー、粗い物に触れない」
指輪、腕時計、バッグチャーム、デニムのリベット。日常の中に、当たるものはたくさんあります。使う前に、当たりそうなものを外す。地味ですが、これが効きます。
④ 「使用しないときは常に保護袋に」
付属の布袋です。捨てないでください。ほこりよけであると同時に、他の物に当てないための仕切りです。
同じ「ファラベラ」でも、素材は違います
ほかのモデルも見比べてみました。
| モデル | 主な素材 |
|---|---|
| ファラベラ ミニ トート | ポリエステル55%+リサイクルポリエステル45%(トリムは無溶剤ポリウレタン) |
| ファラベラ ミニ シアリング | ポリエステル100% |
| ライダー ショルダーバッグ | ポリアミド100(=ナイロン100%) |
注目していただきたいのが真ん中です。「シアリング」という名前ですが、ポリエステル100%です。
シアリングは本来、羊の毛皮を指す言葉です。見た目はムートンそのものなのに、中身は毛皮ではありません。ステラがファー(毛皮)を使わないブランドである以上、当然そうなります。名前に引きずられて「毛皮用の手入れ」をしないでください。
そして大事なのは、素材がこれだけ違っても、公式の指示は全部同じだということです。
濡らした布で、こすらずに、押さえて拭く。それだけです。
服のほうは、話が変わります
同じ公式サイトで、リサイクルカシミア タートルネック セーター(176,000円)を見てみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 素材 | カシミア75%、バージンウール25% |
| お手入れ | ドライクリーニングのみ |
ドライクリーニングのみ。はっきりしています。
ところが、公式はこうも書いています
ステラ マッカートニーには「クレバーケア」というページがあります。2014年に導入した、洗濯表示の仕組みです。洗う・温度・乾かす・アイロン・ドライクリーニングの5つについて、環境負荷を減らす方法をまとめたもの。
そこに、こう書かれています。
ドライクリーニングに関しては、エコ/グリーンなドライクリーナーを探すのが最良の選択です。ほとんどのドライクリーナーが使う化学物質は、大気の質、従業員の健康、そしてあなた自身の健康を損なう可能性があります。ドライクリーニングを完全に避けるために、カシミヤ、コットン、そしてほとんどのウールは、洗面台での手洗いやデリケートコースで簡単に洗えることを覚えておいてください。
ステラ マッカートニー公式サイト「Clevercare」より(筆者訳)
さらに、ステラ本人の言葉も載っています。
「服は洗う回数を減らして、手をかけたほうが長持ちする。サヴィル・ロウで働いていたとき、仕立て屋にそう言われました。本当です。」
どちらに従えばいいのか
タグは「ドライのみ」。理念のページは「ドライを避けて手洗いを」。言っていることが、逆です。
クリーニング師として、はっきりお答えします。
タグが優先です。
理由は3つあります。
- 品質表示は、その一着に対する製造者の指示です。クレバーケアは、ブランド全体の考え方を述べたページで、あなたの1枚を見て書かれたものではありません
- 同じ「カシミヤ」でも、編み方・加工・配色で洗える/洗えないが変わります。縮絨をかけた厚手のニットや、濃淡の配色があるものは、家庭の手洗いで縮んだり色が移ったりします
- タグと違う扱いをして事故が起きると、誰も助けられません。販売店にもクリーニング店にも、打つ手がなくなります
176,000円のセーターで試す実験ではない、というのが正直なところです。
それでも、ステラの言い分には正しい部分があります
「洗う回数を減らす」という主張そのものは、現場の感覚と一致します。
ニットは、着るたびに洗うものではありません。洗うほど繊維は疲れます。1回着たら風を通し、ブラシをかける。これで多くの場合は足ります。
ただし、限度があります。
汗と皮脂は、見えないまま残ります。
そのまま半年しまうと、次のシーズンに黄ばんで出てきます。虫も、繊維そのものより皮脂や食べこぼしの汚れに寄ってきます。
現実的な線引きはこうです。
- シーズン中 …… 着るたびにブラッシングと風通し。洗わない
- シーズン終わり …… 必ず1回、タグどおりに出す。これは省かない
「洗いすぎない」と「一度も洗わない」は、別の話です。
「エコなドライクリーナー」を探すには
公式は「エコ/グリーンなドライクリーナーを」と書いていますが、日本には「エコクリーニング」の統一基準がありません。看板の言葉だけでは判断できないのが実情です。
聞くなら、こう聞いてみてください。
- 「どんな溶剤を使っていますか」
- 「ウェットクリーニング(専門店での水洗い)はできますか」
答えられる店なら、まず安心していいと思います。ウェットクリーニングは、溶剤を使わずに水で洗う専門技術で、ステラの言う「ドライを避ける」に最も近い選択肢です。扱っている店は限られますが、聞いてみる価値はあります。
お手入れに使う道具
公式が指定しているのは、「柔らかい湿った布」と「脱塩水」だけです。それに沿ったものを挙げます。
革用のクリームとオイルは紹介しません。このブランドに革は入っていないので、使い道がありません。
防水スプレーも紹介しません。素材が毎シーズン変わるうえ、公式に推奨の記載がないためです。
バッグの状態で迷ったら、まず購入店に見せてください。素材がこれだけ多いブランドなので、現物を見ないと判断できないことが多いです。
まとめ
- ステラ マッカートニーは2001年設立。創業初日から、レザー・ファー・スキン・フェザーを一度も使っていません
- 動物由来の接着剤も使わず、2010年にはPVCも全面禁止しました
- ただし「ヴィーガンブランド」ではありません。ウールとシルクは使います
- ファラベラの素材表示は8種類。革は1つもありません
- だから革用のクリームもオイルも使いません。塗ればシミになるだけです
- 公式のバッグの手入れは「精製水を含ませた柔らかい布で、こすらずに拭く」
- 「こすらない」理由は公式が書いています——表面に傷がつくから
- 「シアリング」という名前でもポリエステル100%。毛皮用の手入れをしないこと
- 鋭利な物・ジュエリーに当てない。使わないときは保護袋に
- 服は別です。カシミヤのニットはタグに「ドライクリーニングのみ」
- 公式の理念ページは「ドライを避けて手洗いを」と書いていますが、従うのはタグのほうです
- 「洗いすぎない」は正しい。ただし「一度も洗わない」とは違います。シーズン終わりは必ず1回
ステラ マッカートニーを見る
国内の正規取扱いで見る
国内正規取扱いの新品です。在庫と価格はよく変わるので、購入前に各ページの表記をご確認ください。
ELLE SHOP|ステラ マッカートニー
雑誌『エル』のファッション通販です。ファラベラ、ライダー、アパルーサ、ダートムーアといった主要なバッグが実際に並んでいます。
この店を挙げる理由は、商品ページに「お手入れについて」の欄があって、素材と原産国が買う前に読めるからです。上で見たとおり、ステラは同じモデル名でも素材が違います。買う前に素材を確認できるかどうかは、このブランドではとくに大きいと思います。
リンク先はELLE SHOPのトップページです。サイト内の検索で「ステラ マッカートニー」と入れると、バッグやウェアの一覧が出てきます。
革のお手入れと比べると、違いがよく分かります。
→ グッチ(GUCCI)ってどんなブランド?GGキャンバスと革のお手入れ方法も解説
→ ジョン スメドレーってどんなブランド?メリノウールとシーアイランドコットンのお手入れも解説
このブログを書いている人

こんにちは、ソワです。国家資格を持つ現役のクリーニング師で、クリーニング歴は30年以上になります。
今回は、正直おもしろい回でした。ブランドの公式が「ドライクリーニングを避けて」と書いているのを読んだときは、クリーニング屋として少し身構えました。それでも読み進めると、言っていることの半分は現場の実感と同じでした。
調べたこと、現場で確かめたこと、そして意見が分かれたところは分かれたまま書いています。読んだ方が、ご自身で判断する材料になれば十分だと思っています。


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