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薄いのに、へたらない。あのニットです。
ジョン スメドレー(JOHN SMEDLEY)は、イギリスのニットブランドです。派手なロゴもなく、見た目は驚くほど地味。それでいて、一度着ると手放せなくなる人が多い。
ただ、いざ手入れをしようとすると迷います。あんなに薄いものを洗っていいのか。ハンガーに掛けていいのか。毛玉ができたらどうするのか。
この記事では、このブランドがどういう成り立ちなのかを見たうえで、公式が何と言っているかを確かめ、そこにクリーニング師としての補足を足していきます。
ジョン スメドレーとはどんなブランド?
創業は1784年。イギリス・ダービーシャーのリー・ミルズ(Lea Mills)という工場で始まりました。
驚くのはここからです。この工場は、いまも同じ場所で動いています。 公式は自社の工場を「世界で最も長く操業を続けている製造工場」と説明しています。240年以上、同じ川沿いの建物でニットを編み続けているということです。
もとは、下着屋でした
ジョン スメドレーが最初に有名になったのは、ニットではなく下着です。
2代目のジョン・スメドレーIIの時代(1825〜1875年ごろ)、この会社はきわめて細いメリノウールの下着で名を上げました。柔らかく、着心地がよく、質が高い。
そしてここが面白いところなのですが、長い下着を意味する英語「ロングジョン(Long John)」は、ジョン・スメドレー本人の名前から来ていると広く信じられている、と公式が書いています。
肌に直接触れるものを作っていた会社だった。 だからあの細さと、あの柔らかさなのだ、と考えると筋が通ります。
年表で見ると
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1784年 | ダービーシャーのリー・ミルズで創業 |
| 1825〜1875年 | 極細メリノウールの下着で名を上げる。イギリス初のフルファッション編み機を導入 |
| 1876年 | ジェイバード(カケス)の商標を登録。イギリスでも最初期の登録商標のひとつ |
| 1932年 | シーアイランドコットンの3つボタンポロシャツが登場。いまも定番 |
| 1950〜60年代 | マリリン・モンロー、オードリー・ヘプバーン、ビートルズが着用 |
| 1968年 | エリザベス女王がリー・ミルズを訪問 |
| 2013年 | ロイヤルワラント(英国王室御用達)を授与 |
| 2024年 | チャールズ国王のもとでロイヤルワラントを更新 |
| 2026年 | カミラ王妃からもロイヤルワラントを授与 |
下着から始まって、王室に納めるまで240年。ずっと同じ工場で、というのがこのブランドのすごみだと思います。
ブランド基礎データ
| 創業 | 1784年 |
| 創業国 | イギリス(ダービーシャー) |
| 創業者 | ジョン・スメドレー、ピーター・ナイチンゲール |
| 出発点 | 紡績と、極細メリノウールの下着 |
| 代表アイテム | 3つボタンポロシャツ、クルーネック・Vネックのニット、カーディガン |
| 主な素材 | エクストラファインメリノウール、シーアイランドコットン |
| 家庭での洗濯 | △ 条件つき(必ず洗濯表示を確認。公式は手洗いか専門店) |
| お手入れ難易度 | ★★★☆☆ 洗い方より、乾かし方と保管で差が出ます |
2つの素材と、「フルファッション」という作り方
エクストラファインメリノウール
公式によれば、ニュージーランド南島の28の牧場から選んだウールを、イタリアのボルゴセージアで糸に紡ぎ、ダービーシャーで編んでいます。
選んでいる理由は「マイクロン数が細いこと」。繊維が細いほど、チクチクせず柔らかくなります。 重さを足さずに温度調節ができるのが、この素材の持ち味です。
シーアイランドコットン
こちらはカリフォルニア産。公式は「きわめて長い繊維(ロングステープル)」を選んでいると説明しています。
綿は繊維が長いほど、糸にしたときに毛羽が出にくく、なめらかで光沢が出ます。さらっと冷たい肌ざわりになるのはそのためです。1932年のポロシャツ以来の看板素材で、夏物の主役になっています。
なお、この編み地は「30ゲージ」と紹介されることが多いです。ゲージは編み目の細かさを表す数字で、数字が大きいほど細かい。きわめて目の詰まった編み地だと思ってください。
フルファッション ── ここがお手入れの鍵になります
聞き慣れない言葉ですが、この記事でいちばん大事な言葉です。
普通のニットの多くは、大きく編んだ生地を、型紙どおりに裁断して縫い合わせて作ります。ところがジョン スメドレーは違います。前身頃、後ろ身頃、袖。それぞれを最初から「その形」に編み上げます。 裁たない。これがフルファッションです。
公式はこの方法の利点を、無駄が出ない、線がきれい、縫い目が平らと説明しています。
そして、ここからがお手入れの話です。
裁って作った服は、縫い目が形を支えています。フルファッションの服は、編み地そのものが形を作っています。
つまり、編み地が伸びたら、それがそのまま型崩れになる。 元に戻す縫い目が無いのです。あとで出てくる「吊るさない」という話は、ここから来ています。
【クリーニング師が解説】お手入れの注意点
まず、公式が言っていること
ジョン スメドレーは、お手入れについてこう案内しています。
- 繊維に応じて、やさしい手洗い、または専門のドライクリーニング
- 濡れているうちに、形を整える
- 平らに置いて乾かす
- 吊るさず、畳んで保管する(肩の形を保つため)
あわせて「着るたびに休ませ、順番に着回すこと」「暖かい季節はきちんとしまうこと」も勧めています。
そして公式自身が、「品番ごとに違いがあるので、必ずその一着の洗濯表示を読んでください」と書いています。ここがいちばん大事です。 同じブランドでも、素材と品番で扱いが変わります。
やってはいけないこと
① 洗濯機に放り込まない。
目の詰まった細い編み地は、洗濯槽の中で他の衣類とこすれます。摩擦は毛羽立ちと毛玉の原因です。洗える洗濯機表示があっても、洗濯ネットに入れて単独で、いちばん弱いコースにしてください。私は、できるだけ手洗いを推奨します。
② こすらない、もまない、ねじらない。
手洗いは押し洗いです。上から静かに押して、離す。この繰り返しだけ。ウールは繊維の表面がうろこ状になっていて、こすると絡み合って縮みます。一度縮んだものは戻せません。
③ 絞らない。
ねじって絞ると、その形のまま編み目が動きます。水気はタオルにはさんで押さえて取ってください。
④ 吊るして干さない。
これが最大の失敗です。濡れたニットは重い。その重みが肩と身頃を引き伸ばします。フルファッションの服は、編み地が形そのものなので、伸びたら戻りません。
⑤ 熱を当てない。
乾燥機、ドライヤー、直射日光。どれもウールを硬くし、縮ませます。
差が出るのは、乾かし方です
洗うこと自体より、乾かす工程で仕上がりが決まります。 ここは公式の指示がそのまま正解です。
濡れているうちに、寸法を整えてください。 平らな場所に置いて、袖の長さ、身幅、肩幅を手で軽く整える。左右をそろえる。裾のリブを伸ばしすぎない。できれば最初に採寸しておくと、安心です。採寸したサイズ表は、残しておくと次の年のお洗濯で、時短になりますね。
そして、「濡れているうちに」が決定打です。 ニットは濡れているあいだは形が動きますが、乾いたらその形で固まります。乾いてから直そうとしても、もう遅い。
そのうえで平干しにします。平干し用のネットがあれば理想的ですが、無ければバスタオルを敷いて、その上に平らに広げるだけでも構いません。
毛玉について
細い編み地は、摩擦を受けた場所に毛玉が出ます。脇の下、袖の内側、カバンが当たる場所。
これはそのブランドの品質の問題ではなく、細い繊維で編まれたもの全般に起こることです。柔らかさと引き換えの性質だと考えてください。
取り方は次のとおりです。
- できたら早めに取る。 大きく育つと、取ったあとが薄くなります
- 毛玉取り器を使うなら、編み地を平らに置いて、軽く当てる。生地を持ち上げて引っ張ると、余計な繊維まで刈ってしまいます
- ハサミで切るのは、大きいものだけ。数が多いときは道具のほうが安全です
保管
夏のあいだの保管で、翌シーズンの状態が決まります。
- 必ず畳む。 公式が言うとおりです。ハンガーに掛けたまま夏を越すと、肩が落ちます
- 必ず洗ってからしまう。 汗と皮脂は虫の栄養になります。メリノウールは虫の食害を受けます
- 防虫剤を入れる。ただし衣類に直接触れさせない
- 湿気を避ける。押し入れの下段より、上のほうが向いています
お手入れに役立つアイテム
道具は3つで足ります。
LIVRER(リブレ)シルク&ウール ディタージェント
一般的な洗濯洗剤には、ウールの繊維を傷めるものがあります。中性で、ウール対応と書かれたものを選んでください。ニットを洗うなら、洗剤だけは替える価値があります。
公式で販売している洗剤もあります。やっぱり公式公認の洗剤で!という方はこちらもおすすめです。
公式オンラインストアの「KNIT CARE PRODUCT」には、メリノウール&カシミア用とシーアイランドコットン用の洗剤が分かれて並んでいます。この記事で扱った2つの素材に、そのまま対応しているということです。ほかに旅行用の小さなサイズもあります。
▶ ジョン スメドレー公式オンラインストア「KNIT CARE PRODUCT」を見る
※時期により在庫がない場合があります。
自分でできない・自信がない方へ
クリーニングに出す場合
公式は「繊維に応じて、専門のドライクリーニング」を選択肢として挙げています。つまり、出すこと自体は問題ありません。
信頼できるクリーニング店で、ニットの状態を伝えれば、それにあったコースなどをおすすめしてくれると思いますよ。
修理という選択肢
ニットは、穴が開いても直せます。
虫食いや引っかけの穴は、かけつぎ(かけはぎ)という技法で目立たなくできます。編み地を糸単位で埋めていく仕事で、専門にしている業者があります。ただし、目が細かな繊細なものほど、難しいのと、多少直したところがよく見るとわかるのは、ご了解の上で出したほうがいいと思います。
240年続くブランドの一着です。捨てる前に、一度相談してみてください。
まとめ
- 1784年イギリス創業。いまも同じ工場が動いていて、公式は「世界で最も長く操業を続けている製造工場」と説明しています
- もとは極細メリノウールの下着屋。「ロングジョン」の語源はジョン・スメドレー本人だと言われています。肌に触れるものを作ってきた会社だから、あの細さがある
- 素材はニュージーランド産のエクストラファインメリノと、カリフォルニア産のシーアイランドコットン
- フルファッション=裁たずに、パーツをその形に編み上げる作り方。だから編み地そのものが形で、伸びたら戻らない
- 公式の指示は4つ。やさしい手洗いか専門店/濡れているうちに形を整える/平干し/吊るさず畳んで保管
- 乾かし方で仕上がりが決まります。 濡れているうちに寸法を整え、平らに乾かす
- 毛玉は細い編み地の宿命。早めに、平らに置いて、軽く取る
- 穴が開いてもかけつぎで直せます
薄くて軽いので、つい気軽に扱ってしまう一着です。でも中身は、240年かけて細さを追いかけてきた工場の仕事。吊るさない、絞らない、濡れているうちに整える。 この3つを守るだけで、驚くほど長く着られます。
これから買うなら、どちらを選ぶか
ここまで読んで「一枚試してみたい」と思われた方へ。ジョン スメドレーには2つの素材があり、手入れの手間がはっきり違います。 直す側の立場から、選び方を書いておきます。
扱いやすさで選ぶなら、シーアイランドコットン。
綿には、ウールが抱えるリスクが2つありません。縮み(フェルト化)が起きず、虫にも食われない。 この記事の後半で書いた「こすると縮む」「虫害に備える」という話は、綿には当てはまらないのです。最初の一枚で扱いに不安があるなら、こちらが安全です。春夏向き。
このブランドらしさで選ぶなら、メリノウール。
極細メリノの下着から始まった会社です。出発点はこちら。 薄いのに暖かく、温度の調節が効きます。秋冬向き。ただし、縮みと虫害には気をつけてください。
両方欲しいなら、綿から。 扱いに慣れてからウールへ、という順番は理にかなっています。



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