「ビデイルとビューフォート、どこが違うんだろう」「ボーダーって、何が長いの?」
バブアーは、モデルの名前が覚えにくいブランドです。ビデイル、ビューフォート、ボーダー、リデスデール。どれも聞き慣れない響きですし、お店によってカタカナの書き方まで違う。混乱して当然だと思います。
でも、この名前には共通のルールがあります。その多くが、イギリス北部の町や谷の名前なんです。そして形が違うのも、見た目のためではありません。もともと何をするための服だったか ── 馬に乗るのか、猟に出るのか、バイクに乗るのか。そこから来ています。
この記事では、名前の由来と、形が違う理由をひとつずつ見ていきます。最後に、クリーニング師として「名前が分かると何が分かるのか」も書きました。
まず、名前はどこから来ているのか
バブアーは1894年、スコットランド出身のジョン・バブアーが、イングランド北東部の港町サウスシールズで開いた小さな衣料店から始まりました。それから130年、本社はいまもこの町にあります。
だからモデルの名前も、そのまわりの土地から取られています。
- ビデイル(Bedale) … ヨークシャー・デイルズの入り口にある、ノースヨークシャーの町
- ボーダー(Border) … イングランドとスコットランドの国境あたりの地域
- ノーサンブリア(Northumbria) … 本社のあるイングランド北東部の地方の名前
- リデスデール(Liddesdale) … スコットランド国境沿いの谷
土地の名前を、そのまま服につける。地元の人が使う道具として作ってきた会社らしいな、と思います。ただし、あとで出てくるとおり例外もあります。
ちなみにバブアーは、エディンバラ公(1974年)、エリザベス女王(1982年)、プリンス・オブ・ウェールズ=いまのチャールズ国王(1987年)から、それぞれロイヤルワラント(英国王室御用達)を受けてきました。田舎の仕事着が、王室で実際に使われる道具として認められた。そういう珍しい経歴のブランドです。
ただしロイヤルワラントは、授与した本人が亡くなったり、立場が変わったりすると効力を失います。エディンバラ公のぶんは2021年のご逝去で、エリザベス女王のぶんは2022年の崩御で、プリンス・オブ・ウェールズのぶんはご本人の即位で、それぞれ役目を終えました。
そして2024年5月、チャールズ3世国王陛下からあらためて授与されています。つまり現行は1つです。一時期バブアーのタグから紋章が消えていたのは、この切り替わりの期間だったからです。タグの紋章の数は、その一着がいつ頃のものかを知る手がかりにもなります。
ワックスドジャケットの「三大モデル」
まずはこの3つです。生地は同じ系統で、違うのは丈と、そこから来る細かい仕様だけ。ここさえ押さえれば、あとは応用がききます。
| モデル | 登場 | もとの用途 | 丈 | 見分けるところ |
|---|---|---|---|---|
| ビデイル(Bedale) | 1980年 | 乗馬 | 短い(腰が隠れるくらい) | 裾の左右が割れる/袖口にジップ |
| ビューフォート(Beaufort) | 1982年に開発・1983年発表 | 狩猟 | 中間 | 背中に横長の大きなポケット |
| ボーダー(Border) | ─ | 屋外の仕事全般 | 長い(膝上まで) | とにかく長い/裾が広がるAライン |

ビデイル ── 馬に乗るための一着
1980年、当時のバブアーを率いていたマーガレット・バブアーが、乗馬のために作ったジャケットです。
短めの丈、ゆったりしたつくり、そして裾に入った切れ込み。これは鞍にまたがったときに、裾が突っ張らないようにするためのものです。袖口のジッパーも、手綱を握る姿勢で袖口を絞れるように付いています。
もうひとつ、内側にナイロンの帯が縫い込まれていました。馬の体は、思っているより湿っています。乗っているあいだ、その湿気がジャケットに染みてこないように、水気を受け止める帯を入れてあったわけです。
飾りに見えるところが、全部「馬に乗る」から逆算されている。ビデイルが40年以上も残っている理由は、たぶんここだと思います。
なお、日本でよく見かける ビデイルSL は、もともと日本向けに作られた細身版です。仕様はそのままに、シルエットだけすっきりさせたものです。
ビューフォート ── フランスで見た狩猟着
1982年に作られ、翌1983年に発表されました。これもマーガレット・バブアーの仕事です。
きっかけは、彼女がフランスへ買い付けに行ったときのことでした。向こうの狩猟用ジャケットのほうが、イギリスのものより機能も見た目もよくできている。 そう感じたそうです。当時のフランスの狩猟着には、背中いっぱいに広がる大きなポケットが付いているのが当たり前でした。撃った獲物を入れるためのポケットで、フランス語で「カルニエ」と呼ばれます。
これを取り入れたのがビューフォートで、背中の横長のゲームポケットがいちばんの目印になりました。手を入れやすい角度に切られたポケット、コーデュロイの襟、太い両開きのファスナー、タータンの裏地。このあたりも定番の仕様です。
そして名前です。ビューフォートだけは、地名ではありません。 フランス風の雰囲気を出したくて選んだ名前だと説明されています。
だからでしょうか、お店によっては「ボーフォート」と書いてあることがあります。英語読みなら「ビューフォート」、フランス語風に読むと「ボーフォート」。どちらかが間違いというより、もとがそういう名前なので、読み方が二通りに分かれてしまったのだと思います。
ボーダー ── ただ長いだけではない
ビューフォートよりさらに10cmほど長く、膝上まで届きます。裾に向かって少し広がるAラインで、下半身までしっかり隠れます。
長いぶん、外に出ている時間が長い仕事や、風の強い場所で頼りになります。ノーサンブリア(Northumbria) は、このボーダーとまったく同じ型紙で、もっと重いワックスコットンを使ったものです。
オートバイから来たモデル
インターナショナル(International)── 1936年
バブアーの中では、ちょっと毛色の違うモデルです。
1936年、三代目のダンカン・バブアーが、ISDT(国際6日間トライアル)というオートバイ競技のためにワックスコットンのつなぎを作りました。これがインターナショナルの始まりです。
競技に出る人たちのあいだで評判になり、1950年代にISDTが再開されたころには、出場ライダーのほとんど(9割を超えていたとも言われます)がこれを着ていたそうです。
そして1964年。東ドイツで開かれたISDTに、アメリカから初めてチームが出場します。率いていたのがスティーブ・マックイーンでした。彼らはわざわざロンドンに寄って、バブアーで直接ジャケットを買ってから現地に向かっています。この一件で、インターナショナルは一気に世界に知られることになりました。
形の特徴も、全部バイクの上で使うためのものです。
- 斜めに切られた胸ポケット … またがった姿勢のまま、出し入れできる角度
- ウエストのベルト … 走っているときに、風で裾がめくれないよう締める
- 襟のストラップ … 首元から風が入るのを止める
- 左袖の小さなポケット … コース図や鉛筆を入れるため

三大モデルが「馬と猟」だとすれば、インターナショナルは「エンジン」。同じブランドでも、出どころがまるで違います。
キルティングジャケットの系統
ワックスを引いていない、中綿入りのタイプです。ワックスドとは扱いがまるで違うので、ここははっきり分けて覚えてください。
| モデル | キルトの形 | 特徴 |
|---|---|---|
| リデスデール(Liddesdale) | ダイヤ(菱形) | 1994年登場。軽くて薄い、いちばんの定番 |
| チェルシー(Chelsea Sportsquilt) | ボックス(四角) | 中くらいの暖かさ。コーデュロイ襟で品よく見える |
| パウエル(Powell) | ボックス(四角) | チェルシーの上位版。裏が起毛素材で暖かい |

リデスデール
1994年、これもマーガレット・バブアーが手がけたもので、もとは乗馬用の軽いアウターでした。スコットランド国境沿いのリデスデール渓谷が名前の由来です。2024年に30周年を迎えました。
薄いので一枚でも着られますし、ワックスドジャケットの内側に重ねることもできます。バブアーのキルティングといえば、まずこれ、という一着です。
チェルシーとパウエル
この2つはよく似ています。どちらも四角いボックスキルト。違うのは中身で、パウエルのほうは裏地に起毛した素材(ポーラークイルト)が入っていて暖かく、生地も厚めです。チェルシーは綿らしい手ざわり、パウエルは少しなめらかな、化繊寄りの手ざわりになります。
菱形ならリデスデール、四角ならチェルシーかパウエル。 まずはこれで見当がつきます。
生地の「オンス」も、名前とセットで覚える
同じビデイルでも、生地違いがあります。タグや商品名に付いている数字は、生地1平方ヤードあたりの重さです。数字が大きいほど厚い、と思ってください。
| 生地 | 重さ | 質感 |
|---|---|---|
| ソーンプルーフ(Thornproof) | 6oz | ローラーで均一に押さえた、なめらかで少しツヤのある定番の生地 |
| シルコイル(Sylkoil) | 6oz | 織り上がったままの糸を染めて蝋を引いたもの。マットで、乾いた手ざわり |
| オバン(Oban) | 8oz | 起毛させてスエードのような表情を出してから蝋引き。いちばん厚くて丈夫 |
「ソーンプルーフ(thornproof)」は、そのまま「棘に強い」という意味です。名前が、この生地の目的をそのまま言っている。ヤブの中を歩くための道具なんですね。
【クリーニング師のメモ】名前で洗い方は決められません
ここからは、実際に服を扱う立場からの話です。
モデル名が分かると、その一着が何のために作られたかの見当がつきます。裾が割れているのは馬に乗るため、胸ポケットが斜めなのはバイクにまたがるため。そう分かると、その服がどんな使われ方をしてきたのかも読めてきます。
ただ、名前から手入れの方法を決めることはできません。
同じ「ビデイル」でも、ワックスコットンのものと、キルティングのものの両方があります。ワックスドは水洗いもドライクリーニングもできません。キルティングは洗濯表示に従います。まるで反対の扱いになる二着が、同じ名前で売られているということです。
決め手になるのは、品質表示のタグに書かれた組成と洗濯表示だけです。モデル名は、タグを読む前の準備運動くらいに考えてください。
ワックスドで、公式が「してはいけない」としていること
バブアーは、ワックスコットンの製品について、次のことを禁止しています。
- 洗濯機での洗濯、漂白
- アイロン
- ドライクリーニング、乾燥機
- 長い時間、直射日光に当てること
ドライクリーニングがだめなのは、溶剤がワックスを溶かして流してしまうからです。防水の役目をしているのはワックスそのものなので、これが抜けてしまうと、ただの木綿の布に戻ってしまいます。
ふだんの手入れは、ブラシで砂ぼこりを払って、水を含ませたスポンジで表面を軽く拭く。これだけです。お湯は使わないでください(ワックスが動いてしまいます)。
「洗えない」の、その先
とはいえ、何年も着ていれば汗も匂いも汚れも入ります。そこで出てくるのがリプルーフ(再ワックス)です。抜けたワックスを塗り直して、防水性を戻す作業ですね。専用のワックスを買えば、自分でもできます。
もう少し進んだやり方として、古いワックスをいったん落として洗い、あらためてワックスを入れ直すという工程を持っている専門業者もあります。これは「ドライクリーニングしてもいい」という意味ではありません。ワックスを戻すところまで込みで組まれた作業だから成り立つものです。公式が禁止しているのはあくまで普通のドライクリーニングで、その先の工程まで持っているかどうかが分かれ目になります。
お願いするときは、「リプルーフまで含めて対応できますか」と最初に聞いてみてください。ここを確かめないまま出すと、ワックスが抜けた状態で戻ってくることがあります。
▶ バブアーというブランドそのものと、ワックスコットンの手入れの詳しいところは、こちらの記事にまとめています → Barbour(バブアー)ってどんなブランド?オイルドコットンのお手入れ方法も解説
まとめ
- モデル名の多くはイギリス北部からスコットランドにかけての地名。ビデイル、ボーダー、ノーサンブリア、リデスデールは、どれも実在する土地の名前
- ビデイル(1980年)は乗馬用。短い丈、裾が割れる、袖口にジップ。ビューフォート(1983年発表)は狩猟用で、背中に大きなゲームポケット。ボーダーはもっと長いロング丈
- ビューフォートだけは地名ではありません。 フランスの狩猟着をお手本にしたので、それらしい響きの名前が選ばれました
- インターナショナル(1936年)はオートバイ競技用。斜めの胸ポケットもベルトも、バイクにまたがるための形です。1964年にスティーブ・マックイーンが着ました
- キルティングは菱形ならリデスデール、四角ならチェルシーかパウエル
- 生地は6ozソーンプルーフ/6ozシルコイル/8ozオバンが代表的なところ
- 名前で洗い方は決められません。 同じ名前で、ワックスドとキルティングの両方があります。頼りになるのは洗濯表示だけです
名前が覚えにくいのは、遠いイギリスの町や谷の名前だからです。裏を返せば、ビデイルもボーダーもリデスデールも、地図の上に実際にある場所ということ。そう思うと、少しだけ覚えやすくなる気がします。


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