「マヤとエベレスト、どっちがいいんだろう」「エルミンヌって、どういう意味?」
モンクレールは、ダウンに付いている名前が独特です。マヤ、ヒマラヤ、エベレスト、エルミンヌ、フラメッテ。カタカナだけ見ても、何がどう違うのかまるで分かりません。
ただ、並べてみると名前が3つの系統に分かれていることが見えてきます。山の名前、フランスの地名、そしてフランス語の言葉。どの系統かが分かると、その一着がどういう考えで作られたのかも、だいたい見当がつきます。
この記事では、名前の由来と、形がどう違うのかを整理します。最後に、クリーニング師として「名前が分かると何が分かるのか」も書きました。
はじめに、ひとつお断りです
モンクレールが「こういう決まりで名前をつけています」と公式に説明しているものは、見つけられませんでした。
これから書くのは、モデル名を並べて整理したときに見えてくる傾向です。かなりはっきりした傾向だとは思いますが、公式の説明ではない、というところは差し引いて読んでください。由来がはっきりしないものは、そのように書きます。
① 山と、遠征から来た名前
まずメンズの定番です。この系統が、いちばんモンクレールらしいところだと思います。
モンクレールは1952年、フランス・グルノーブル郊外のモネスティエ・ド・クレルモンで生まれました。もともとはテントと寝袋を作る、山の道具の会社です。
大きかったのは、登山家リオネル・テレイを技術顧問に迎えたこと。1954年には「モンクレール プール リオネル・テレイ」という高所用のラインが作られます。そして同じ1954年、イタリアのカラコルム遠征隊がモンクレールのダウンを着て、K2の初登頂に成功しました。
この遠征の歴史が、そのままモデル名になっています。
| モデル | 名前の由来 | 性格 |
|---|---|---|
| ヒマラヤ(HIMALAYA) | ヒマラヤ山脈 | 遠征用に作られた、防寒性の高い系統 |
| カラコルム(KARAKORAM) | 1954年の遠征地 | 1954年イタリア隊が着たウェアが原型 |
| K2 | カラコルムの山 | 同じく遠征由来 |
| エベレスト(EVEREST) | 世界最高峰 | 初期の型を、タイトなショート丈に更新したもの |
| マヤ(MAYA) | 山の名前と思われる(未確認) | 現在のいちばんの定番 |
山の名前が付いているものほど、本気の防寒側。 ざっくりとした目安です。
バジーレ → ヒマラヤ → マヤ という流れ
面白いのは、定番モデルが世代交代しながら、少しずつ細く・短くなっていることです。
出発点はバジーレ(BAZILLE)という、初期からある型でした。これの身幅と袖幅を細くしたのがヒマラヤ。さらに細く、丈も短くして、街で着ることを意識したのがマヤです。マヤが登場したのは2010年ごろとされています。
左の袖に付くワッペンも、この流れのなかで小さくなっていきました。ヒマラヤの大きなワッペンに対して、マヤはかなり控えめです。

山の道具だったものが、だんだん街の服になっていく。 その過程がそのまま形に出ている、と考えると分かりやすいと思います。
なお、この系譜については公式の資料ではなく、専門店や中古販売店の解説を突き合わせて整理しました。大きな流れは各所で一致していますが、細かい年代には幅があります。
エベレスト
こちらも、初期からあったヴェニス(VENIS)という型がもとになっています。重かったフォルムを、タイトなショート丈に作り直したものです。
表地に光沢のあるナイロンを使っているのがこのモデルの目印で、「シャイニーナイロン」と呼ばれることもあります。山の道具だったダウンに、高級感という要素を持ち込んだ一着でした。
② フランスの地名から来た名前
もうひとつの系統です。こちらはブランドの故郷につながっています。
- モンジュネーヴル(MONTGENÈVRE) … フランス・オート=アルプ県にある標高1,854mの峠の名前です。スキーリゾートとしても知られています
- グルノーブル(GRENOBLE) … 創業地のすぐ近くの都市。1968年のグルノーブル冬季オリンピックで、モンクレールはフランスのスキーチームの公式ウェアを担当しました。 ブランドにとって特別な地名です
ランス(LANS) や シュヴァリエ(CHEVALIER) も、フランスの地名に由来すると思われますが、こちらは確かなところが分かりませんでした。
③ フランス語の「言葉」から来た名前
ここが面白いところで、レディースには地名でも山でもない名前が混ざります。
- エルミンヌ(HERMINE) … フランス語でオコジョ。冬に白くなる、あの小さな動物です。毛皮を思わせる名前ですね
- フラム(FLAMME) … フランス語で炎。派生モデルのフラメッテ(FLAMMETTE)は、この名前から来ています
エルミンヌとフラメッテの違い
この2つはよく比べられます。どちらもロング丈で、長さはだいたい同じ。 違うのは印象の作り方です。
エルミンヌは、前身頃にグログランテープが縦に入っています。グログランというのは、細かい畝(うね)のある平たいリボンのこと。これが縦のラインを作るので、ダウンなのにすっきり見えます。表地は光沢のあるナイロンです。フードは取り外しでき、内側の紐で腰まわりを調整できます。
なお、エルミンヌはすでに生産が終了しています。 2023年に後継のモデルが出ました。中古で探している方が多いのは、そのためです。
対してフラメッテは、襟元にボリュームがあるのが目印です。表地はマットで、つやは控えめ。深い黒が出ます。

この系統は、いまのモデルにも続いています
エルミンヌもフラムも、もう新品では手に入りません。ただ、「フランス語の言葉から名前を取る」という流れそのものは、いまも続いています。
試しに、現行のレディースのロングダウンを並べてみます。
| モデル名 | フランス語での意味 |
|---|---|
| ハルファン(HARFANG) | シロフクロウ。harfang des neiges で「雪のフクロウ」 |
| アボセット(AVOCETTE) | ソリハシセイタカシギ。くちばしが反り返った水鳥 |
| フルマリュス(FULMARUSSE) | フルマカモメ。北の海の鳥です |
| ピック(PIC) | キツツキ。「山の頂」という意味もあります |
| ティムロング(THYMLONG) | ハーブのタイム(thym)+ロング丈 |
| マントロング(MENTHELONG) | ミント(menthe)+ロング丈 |
鳥と、ハーブ。 エルミンヌ(オコジョ)から始まった系統が、生きものと植物の方向へ広がっているのが見て取れます。ロング丈のモデルに「〜ロング」と付くのも、分かりやすい決まりごとですね。
もっとも、バーベル(BARBEL)、ジュジュロング(JUJULONG)、リッテ(LITTE) のように、たどっても由来のはっきりしないものもあります。すべてがきれいに説明できるわけではありません。ここでもやはり、これは公式の説明ではなく、フランス語としての語義です。
ひとつ申し添えると、名前が鳥やハーブでも、中身はロング丈のダウンです。 中に入っている羽毛の量は相応にあって、乾燥に時間がかかる点は、山の名前が付いたモデルと変わりません。かわいらしい名前に引っぱられないほうがいい、というのが受付側の実感です。
これは「モデル名」ではなく「ライン名」です
ここを混同している方がとても多い部分です。タグに書かれている名前のなかには、服の種類ではなく、シリーズの名前が混ざっています。

- モンクレール コレクション … 本体です。マヤもエベレストもエルミンヌも、ここに属します
- モンクレール グルノーブル … 2010年に始まったライン。スキーウェアとしての性能を持たせたものです
- モンクレール ジーニアス … 2018年から。「1つのメゾン、異なるボイス」を掲げて、外部のデザイナーとの協業を入れ替えながら出すコレクションです。藤原ヒロシなども参加しています
もうひとつ、ボーン トゥ プロテクト(Born to Protect) という名前を見かけることがあります。これはラインではなく、サステナビリティ計画の名前です。再生ナイロンなどを使った製品につけられます。棚の分類とは別のもの、と考えてください。
【クリーニング師のメモ】名前で洗い方は決められません
ここからは、実際に服を扱う立場からの話です。
モデル名が分かると、その一着がどのくらいのダウンを抱えているかの見当がつきます。山の名前が付いた厚いモデルなのか、街向けに薄くしたモデルなのか。これは扱ううえで役に立つ情報です。
ただ、名前から洗い方を決めることはできません。
理由がモンクレールの場合ははっきりしていて、同じモデル名でも、表地が違うものが並行して売られているからです。
たとえばモンジュネーヴルには、つやのあるナイロンのものと、ウールのフランネルを表地にしたものがあります。名前は同じでも、扱いはまったく別です。
決め手になるのは、取り扱い表示だけです。モデル名は、タグを読む前の準備運動くらいに考えてください。
表地の「つや」は、見ておく価値があります
光沢のあるナイロン(ラッカーナイロン、シャイニーナイロンなどと呼ばれます)と、マットなナイロンでは、扱いの気の使いどころが変わります。
光沢のあるものは、表面の加工が見た目そのものです。強くこすったり、熱を当てたりすると、そこだけつやが変わって目立ちます。マットなものは、逆にこすれた部分が白っぽく見えやすい。
どちらも「元に戻す」のが難しいところなので、ブラシをかけるにしても、力を入れないのが基本になります。
ダウンが多いモデルほど、乾かすのに時間がかかります
現場の感覚として、これははっきりしています。山の名前が付いた厚いモデルは、乾燥の失敗が結果に出やすいです。
ダウンは濡れると重みで一か所に寄ります。そのまま乾くと塊になって、羽毛がふくらまなくなる。量が多いほど、この偏りが起きやすく、乾くまでにも時間がかかります。もちろんクリーニング店では、この辺はコツがあるので、きれいに仕上がってきます。
受付のときにモデル名を見ておくと、納期の見当がつけやすくなります。たいていは、ダウンは時間をかけて仕上げるところが多いですよね。
▶ ダウンという素材そのものの話と、洗い方・乾かし方・保管の詳しいところは、こちらの記事にまとめています → MONCLER(モンクレール)ってどんなブランド?ダウンのお手入れ方法も解説
まとめ
- モンクレールの名前は3つの系統に分かれます。山と遠征/フランスの地名/フランス語の言葉。ただし、これは公式の説明ではなく、並べてみて分かる傾向です
- 山の名前が付いたものほど、本気の防寒側。 ヒマラヤ、カラコルム、K2、エベレスト。1954年のK2初登頂にモンクレールのダウンが使われた歴史から来ています
- 定番はバジーレ → ヒマラヤ → マヤと世代交代し、そのたびに細く・短くなってきました。袖のワッペンも小さくなっています
- モンジュネーヴルはフランスの峠の名前。 グルノーブルは創業地の近くで、1968年の冬季五輪でフランス・スキーチームの公式ウェアを担当した土地です
- エルミンヌはフランス語でオコジョ、フラムは炎。 エルミンヌは縦のグログランテープ、フラメッテは襟元のボリュームが目印です(エルミンヌは生産終了)
- この「フランス語の言葉」の系統は、現行モデルにも続いています。 ハルファン(シロフクロウ)、アボセット(水鳥)、ティムロング(ハーブのタイム)など、鳥と植物が並びます
- グルノーブルやジーニアスは「ライン名」で、モデル名ではありません。 ボーン トゥ プロテクトに至っては、サステナビリティ計画の名前です
- 名前で洗い方は決められません。 同じモデル名でも表地が違うものがあります。頼りになるのは取り扱い表示だけです
山で死なないための道具として始まったブランドが、いまは街で着られています。その道のりが、そのままモデル名に残っている。 タグの名前を一度調べてみると、手元の一着の見え方が少し変わるかもしれません。モンクレール公式のコードチェックページで、製品に付いている識別コード(品質表示タグとは別の、銀色のシール状タグ)を入力すると(QRコードもあります)、公式のモデル名が表示されます。
この記事を書いた人

ソワ|国家資格を持つ現役のクリーニング師です。クリーニング歴は30年以上になります。
業界に長くいても、知らないブランドはまだまだあります。ブランドを一つずつ勉強しながら、その成り立ちと、そこから導かれるお手入れの方法を書いています。服が「何のために作られたのか」が分かると、扱い方の答えは、たいていそこにあります。
店の名前は出していません。特定のお店に来ていただくためのブログではないからです。ご自身で手入れをされるにせよ、お近くの信頼できるお店に相談されるにせよ、その判断の材料になれば十分だと思っています。


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