グッチの服の「ライン」と柄の名前|ウェブ・GG・フローラの由来

バッグ・革小物

「グッチのライン」で検索すると、たくさん出てきます。GGキャンバス、GGスプリーム、シェリーライン、ホースビット1955、ジャッキー1961。

でも読んでいるうちに、だんだん分からなくなってきませんか。どれが上位で、どれが普及版なのか。 ヴィヴィアン・ウエストウッドのレッドレーベルや、モンクレールのグルノーブルのような、格の違いがあるのかどうか。

先に答えを書きます。グッチに、そういう階層のラインはありません。

この記事では、グッチで「ライン」と呼ばれているものの正体を整理して、服でよく出会う柄の名前と由来を見ていきます。最後に、クリーニング師として「柄の名前が分かると何が分かるのか」も書きました。

まず、結論から

グッチには、格の違う「セカンドライン」がありません。

ヴィヴィアン・ウエストウッドには、最上位のゴールドレーベルと、日常着のレッドレーベルがありました。モンクレールには、本体のコレクションと、スキーウェアのグルノーブルがあります。どちらも「役割の違う棚」です。

グッチで「ライン」と呼ばれているのは、そういうものではありません。柄や意匠、あるいは特定の製品シリーズにつけられた名前です。

グッチ公式も、新しい意匠のシリーズが出たときに「新ライン〔GGエンブレム〕」という書き方をしています。つまり日本語でいう「ライン」は、グッチの場合はモチーフ単位の呼び名だと考えてください。

だから「上か下か」を探しても答えは出ません。探すべきは「どの柄か」です。

年号が付くのは、バッグと靴の名前です

グッチの製品名には、よく数字が入っています。バンブー1947、ホースビット1953、ホースビット1955、ジャッキー1961この数字は、その意匠が生まれた年です。 値段の格でも、シリーズの新旧でもありません。

ただし、年号が付いているのは、バッグと靴の名前です。 竹の持ち手のバッグ、ローファー、ハンドバッグ。服に、この名付け方は使われません。

では服は何を手がかりにするのか。柄の名前です。 公式の呼び名と、日本でよく使われている通称を並べておきます。

公式の呼び名日本での通称どんな柄か
ウェブ(Web)シェリーライン緑・赤・緑の帯。馬の腹帯(サドルの下の帯)が由来
GG(インターロッキングG)GG柄・ダブルG向かい合った2つのG。創業者グッチオ・グッチのイニシャル
ディアマンテ(Diamante)ひし形柄織りで表したひし形の連続柄
フローラ(Flora)フローラ柄花と蝶のボタニカル柄。1966年のスカーフが原型
ホースビット(Horsebit)馬具柄馬の轡(くつわ)の金具をかたどった意匠

中古市場や国内の解説記事では、真ん中の通称で出てくることがよくあります。別の柄ではなく、同じものを別の名前で呼んでいるだけだと思ってください。

それぞれの由来を、次の章で一つずつ見ていきます。

服で出会う、4つの柄

服の場合、バッグほどモデル名は前に出ません。代わりに手がかりになるのがです。

ウェブ ── 馬の腹帯から来た、緑・赤・緑の帯

グッチと言われて多くの人が思い浮かべる、あの3本の帯です。公式の呼び名はウェブ(Web)

由来は馬の腹帯(サドルの下で馬の胴に回すベルト)とされています。1950年代に登場しました。グッチは乗馬用品の意匠を繰り返し取り込んできたブランドで、これもその一つです。

なお、日本では「シェリーライン」という呼び方も広く使われています。 中古市場や国内の解説記事ではこちらの名前で出てくることが多いので、同じものだと思ってください。

GG ── 創業者のイニシャル

向かい合った2つのG。グッチオ・グッチ(Guccio Gucci)のイニシャルです。片方が上下逆さまになっているのが特徴で、インターロッキングG(組み合わさったG)とも呼ばれます。

バッグの生地としての「GGキャンバス」「GGスプリーム」も、この柄を連続させたものです。服では、ニットの編み込みやプリント、金具として現れます。

ディアマンテ ── 材料不足から生まれたひし形

ひし形を並べた織り柄です。1930年代、イタリアが経済制裁を受けて革が手に入らなくなった時期に、代わりの素材として使った麻のキャンバスに入れられたのが始まりでした。

足りないものを工夫で埋めた結果が、そのまま看板になった。 グッチにはこの流れが繰り返し出てきます(1947年のバンブーも同じ経緯です)。

フローラ ── 1966年、ある一人のために描かれた

花と植物と昆虫が敷き詰められた、あの華やかな柄です。

1966年、モナコ公妃グレース・ケリーのために作られたと伝えられています。ミラノの店を訪れた公妃のために、ロドルフォ・グッチがイラストレーターのヴィットリオ・アコルネロにスカーフの図案を依頼した、という話です。

37色を使い、43種類の花や植物、昆虫が描かれているとされています。

この柄は、発表当時からボッティチェリの絵画『プリマヴェーラ(春)』になぞらえて語られてきました。 1480年頃に描かれた、フィレンツェのウフィツィ美術館にある絵です。

絵の右寄りに、花の女神フローラが立っています。白い衣に花模様が散り、両手で胸元から花をまき散らしている女性です。足元の草地にも数百種の草花が細かく描き込まれていて、「花で埋め尽くす」という発想そのものが重なります。

実物はウフィツィ美術館の公式ページWikipedia「プリマヴェーラ」で見られます。フローラの衣装を見てからスカーフを見ると、なるほどと思えるはずです。

グッチのシルクスカーフを代表する柄で、いまも服やスカーフに繰り返し登場します。

なお、このフローラの成り立ちについては複数の資料で内容が一致していますが、公式サイトの現行ページでは確認できませんでした。 ボッティチェリとの関係も、アコルネロ本人が語った記録は見当たらず、後年の解説で繰り返されてきたものです。そのため「伝えられています」「語られてきました」という書き方にしています。

ホースビット ── 馬具の轡(くつわ)

金属の輪と棒を組み合わせた、あの金具です。もとは馬の口にかませるの形。1953年のローファーで有名になり、いまはベルトやアクセサリー、服のディテールにも使われています。

コラボレーションは「ライン」ではありません

もう一つ混同しやすいのが、他ブランドとの協業です。

2021年、グッチ創業100年に合わせてバレンシアガとの「ザ ハッカー プロジェクト」が発表されました。互いのロゴやデザインを交換するという企画で、大きな話題になりました。ほかにも adidas やザ・ノース・フェイスとの協業があります。

これらは期間限定の企画であって、常設のラインではありません。

【クリーニング師のメモ】柄の名前で洗い方は決められません

ここからは、実際に服を扱う立場からの話です。

柄の名前が分かると、その一着がグッチのどの流れにあるのかは見えます。ただ、扱い方は柄では決まりません。

理由は単純で、同じ柄が、まったく違う素材で作られているからです。

ウェブの帯が入った服には、綿のスウェットもあれば、シルクのシャツも、ウールのカーディガンもあります。GGの柄も、ジャカードで織られたもの、プリントされたもの、編み込まれたものがあります。

決め手になるのは、品質表示のタグに書かれた組成と洗濯表示だけです。 柄の名前は、タグを読む前の準備運動くらいに考えてください。

「別の素材が縫い付けてある」ことに気をつけてください

グッチの服で気をつけたいのは、一着の中に素材が複数入っていることです。

ウェブの帯は、生地に織り込まれている場合と、別に織ったテープを縫い付けている場合があります。後者だと、本体とテープは別の素材です。ほかにも、革のパイピング、金具、刺繍、スパンコール。

これは品質の問題ではなく、装飾のある服全般に共通する話です。ただ、扱ううえでは意味があります。素材が違えば、水や熱に対する反応も違う。 だから、いちばん弱い部分に合わせるのが原則になります。

革やスパンコールが付いていたら、その時点で家庭洗いはあきらめてください。 表示に何と書いてあっても、装飾部分は別扱いです。

シルクのスカーフとシャツ

フローラをはじめ、グッチにはシルクの製品がたくさんあります。

  • こすらない。 シルクは摩擦で毛羽立ち、光沢が変わります。一度変わった光沢は戻りません
  • 水ジミに注意。 部分的に濡らすと、乾いたあとに輪ジミが残ることがあります
  • 汗と香水。 どちらも時間が経ってから変色として出ます。着たらすぐ、ではなく、シーズンが終わる前に手を打ってください

保管

  • 畳みじわが折り目として残りやすいので、スカーフは丸めるか、ゆるく畳む
  • 金具の付いた服は、金具が他の服に当たらないように。摩擦は相手の服も傷めます
  • 湿気を避ける。革のパーツが付いていれば、カビが生えたりすることがあります。

▶ グッチというブランドそのものと、GGキャンバス・革のお手入れの詳しいところは、こちらの記事にまとめています → グッチ(GUCCI)ってどんなブランド?GGキャンバスと革のお手入れ方法も解説

まとめ

  • グッチには、格の違うセカンドラインがありません。 「ライン」と呼ばれているのは、柄や意匠、製品シリーズの名前です
  • 名前に付いている年号は、その意匠が生まれた年。 バンブー1947、ホースビット1953、ジャッキー1961。値段の格ではありません
  • ウェブ(緑・赤・緑の帯)は馬の腹帯が由来。1950年代登場。日本ではシェリーラインとも呼ばれます
  • GGは創業者グッチオ・グッチのイニシャル。片方が逆さまに組み合わさっています
  • ディアマンテは1930年代、革が手に入らない時期に生まれたひし形の織り柄
  • フローラは1966年、グレース・ケリーのために描かれたと伝えられる柄。37色・43種の花や植物が描かれています
  • コラボレーションはラインではありません。 期間限定の企画です
  • 柄の名前で洗い方は決められません。 同じ柄が違う素材で作られています。しかも一着に複数の素材が入っていることが多い。いちばん弱い部分に合わせるのが原則です。ここは、専門のクリーニングにお願いしましょう。

材料が足りないところから模様を生み出し、馬具の形を服に持ち込んできたブランドです。柄の名前は、そのつど「何がなかったか」「何を見ていたか」の記録でもあります。手元の一着の柄を調べてみると、少し見え方が変わるかもしれません。


この記事を書いた人

ソワのアイコン。本を開いて鉛筆を持つフレンチブルドッグのイラスト

ソワ|国家資格を持つ現役のクリーニング師です。クリーニング歴は30年以上になります。

業界に長くいても、知らないブランドはまだまだあります。ブランドを一つずつ勉強しながら、その成り立ちと、そこから導かれるお手入れの方法を書いています。服が「何のために作られたのか」が分かると、扱い方の答えは、たいていそこにあります。

店の名前は出していません。特定のお店に来ていただくためのブログではないからです。ご自身で手入れをされるにせよ、お近くの信頼できるお店に相談されるにせよ、その判断の材料になれば十分だと思っています。

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