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「ISISとDORSET、何が違うんだろう」「30ゲージって、何のことですか」
ジョン スメドレー(JOHN SMEDLEY)のニットを買おうとすると、必ずこの壁にぶつかります。商品名がISIS(アイシス)、FINCHLEY(フィンチリー)、DORSET(ドーセット)、HAWLEY(ホーリー)。横に30GだのEASY FITだの、見慣れない記号が並ぶ。
ここを整理せずに買うと、「思っていたより大きかった」「思っていたより薄かった」が起きます。逆に、分かれ方さえつかめば、このブランドはとても選びやすいブランドです。
この記事では、ジョン スメドレーが何によって分かれているのかを、素材・ゲージ・フィット・モデル名の順に整理します。最後に、クリーニング師としての補足も書きました。
はじめに、ひとつお断りです
ジョン スメドレーが「こういう決まりでモデル名をつけています」と公式に説明しているものは、見つけられませんでした。
素材・ゲージ・フィットについては公式に説明があります。ここは公式の記述に沿って書きます。一方、モデル名の由来は、名前を並べたときに見えてくる傾向にすぎません。そこは、そのように書き分けます。
まず、このブランドに「ライン」はありません
ブランドを調べるとき、私たちはつい「ラインの違い」を探してしまいます。モンクレールなら〈コレクション/グルノーブル/ジーニアス〉、ヴィヴィアン・ウエストウッドなら〈レッドレーベル/アングロマニア〉というふうに、用途や価格帯でサブブランドが分かれている。
ジョン スメドレーには、その構造がありません。作っているのは、リー・ミルズという1つの工場だけ。そこで作られるものは、全部ジョン スメドレーです。安いライン、若い方のライン、という分け方をしていません。
ではどう分かれているのか。次の4つの掛け合わせです。
- 素材(何で編んであるか)
- ゲージ(どれくらい細かく編んであるか)
- フィット(どういうシルエットか)
- モデル名(どの型か)
商品ページに「ISIS|30G|EASY FIT」と並んでいるのは、この座標を示しているわけです。読み方が分かると、一気に見通しがよくなります。
① 素材 ── いちばん大きい分かれ目
公式が主に挙げているのは、シーアイランドコットン、メリノウール、カシミヤ、シルクの4つです。日常的に店頭で出会うのは、前の2つがほとんどだと思います。
シーアイランドコットン(海島綿)
綿の最高級品です。繊維が長く、絹のような光沢が出ます。汗をかく季節のポロシャツやTシャツは、だいたいこちら。
エクストラファインメリノウール
非常に細いメリノです。公式でもノンミュールジング(羊への負担が大きい処置をしていない)であることを明記しています。薄いのにチクチクしないのは、この細さのおかげです。
エコカシミヤ
近年のコレクションで前に出てきているのが、再生カシミヤを使ったものです。後述する「ROCKFORD(ロックフォード)」「OXNARD(オックスナード)」がこれにあたります。
② ゲージ ── 数字が大きいほど、細かい
ゲージは、編み機の針の密度です。数字が大きいほど目が細かく、薄く仕上がります。ジョン スメドレーの公式が説明しているのは、次の4段階です。
| ゲージ | 質感 |
|---|---|
| 30ゲージ | もっとも細かい。軽くてなめらか。定番の薄手 |
| 24ゲージ | やや厚めで、落ち感が出る |
| 7ゲージ | ざっくりしたミドルゲージ |
| 5ゲージ | 主にマフラーなどのニット小物 |
「ジョン スメドレーといえば、あの薄いニット」というイメージは、ほぼ30ゲージの話です。1枚で着ると体の線が出るくらい薄い。ジャケットの下に着ても、まったくもたつきません。
逆に「1枚で冬を越したい」なら24ゲージや7ゲージを見ることになります。同じブランドでも、この差は着心地としてはかなり大きいです。
③ フィット ── ここを知らないとサイズを外します
日本公式が説明しているフィットは、5種類あります。
| フィット名 | 特徴 | 対象 |
|---|---|---|
| MODERN FIT | 肩幅・着丈・腕まわりに少し余裕を持たせた定番 | メンズ/レディース |
| EASY FIT | 全体にゆとりのあるオーバーサイズ寄り。歴史あるクラシックモデルに採用 | メンズ |
| CONTEMPORARY FIT | ヨーロッパサイズが基本。モダンフィットより1サイズ大きめ | レディース |
| COMMON FIT | やや肩を落としたドロップショルダー風。ユニセックス発想 | レディース |
| SWEATER SERIES | 24ゲージの厚手。ゆったりした肩幅とストレートショルダー | メンズ(日本別注) |
注目したいのはEASY FITです。「イージー」と聞くと着心地の話に思えますが、指しているのはシルエットのゆとりです。公式の説明でも、全体にゆとりのあるオーバーサイズ寄りのシルエットだとされています。
そして、このEASY FITが付いているのは、ISISやDORSETのような昔からあるクラシックな型です。つまり定番を選ぶほど、サイズ感はゆったりする。普段の感覚で選ぶと大きく感じることがあるので、ここは試着するか、実寸を確認してから選ぶのが確実です。
もうひとつ面白いのがSWEATER SERIES。これは日本別注です。日本がジョン スメドレーの最大の輸出先だという事情が、こういう形で製品に出てきています。
④ モデル名 ── これが実質の「ライン」です
ジョン スメドレーで「ライン」に一番近い働きをしているのが、このモデル名です。ISIS、DORSET、FINCHLEY、HAWLEY。一度定番になった型は、何十年も同じ名前で作り続けられます。
ISIS と FINCHLEY ── 半袖と長袖の兄弟
このブランドの看板が、広襟のニットポロです。
- ISIS(アイシス)|半袖/30ゲージ/EASY FIT/コットン
- FINCHLEY(フィンチリー)|長袖/30ゲージ/EASY FIT/シーアイランドコットン
形はほぼ同じで、袖の長さが違う。FINCHLEYの袖口は長めのリブで、折り返して着られるターンバック仕様になっています。イギリスの伝統的なメンズウェアのディテールです。
ターンバック(turn back)は、そのまま「折り返す」という意味です。袖口のリブをあらかじめ長めに編んでおき、着る人が好きな幅で折り返して使えるようにしてあります。折り返さずに手の甲近くまで下ろしてもいいし、一折り、二折りして袖丈を詰めてもいい。腕の長さに合わせて、着る人が調整できる作りです。
手入れの面でも、ここは覚えておいて損はありません。折り返すと、それまで内側だった面が表に出ます。袖口は皮脂や手の汚れが付きやすい場所なので、折り返し方をいつも同じにしていると、そこだけ汚れや擦れが集中します。たまに折り返さずに着る、折り幅を変える。それだけで持ちが変わります。
DORSET ── 同じ顔で、素材が違う
ここが、このブランドを理解するうえで一番のポイントかもしれません。
DORSET(ドーセット)はISISと同じ広襟の長袖ポロですが、素材は100%メリノウールです。見た目の系統は同じなのに、中身は綿とウールでまったく違う。
つまり「モデル名=素材」ではないということです。ここは後でもう一度触れます。
最初の1枚に選ばれやすいのは、この2型
どこから入るか迷ったら、ISIS(半袖・綿)とDORSET(長袖・ウール)が分かりやすい入口です。顔つきは同じ広襟で、着る季節が違うだけ。この2つを押さえておくと、他のモデルが「その派生」として見えてきます。
どちらもEASY FITなので、シルエットはゆったりめです。普段のサイズ感で判断せず、肩幅と身幅の実寸を確認してから選んでください。
楽天市場で「JOHN SMEDLEY ISIS」を探す 楽天市場で「JOHN SMEDLEY DORSET」を探す名前は、地名が多い
公式の説明はありませんが、並べてみるとイギリスの地名らしきものが目立ちます。DORSETはイングランド南西部の州、FINCHLEYはロンドン北部の地名、ISISはオックスフォードを流れるテムズ川の別称です。
ちなみにISISだけは、日本での読み方が「アイシス」と「イシス」に割れています。英語の発音としては「アイシス」ですが、エジプト神話の女神が日本語で「イシス」と定着しているため、店によって表記が変わる。由来を公式が明言していないので、どちらが正しいとも言い切れないところです。
ロールネックのHAWLEY(ホーリー)、エコカシミヤのROCKFORD(ロックフォード)やOXNARD(オックスナード)も同じ調子です。ダウンに山の名前を付けたモンクレールが「山の道具屋だった過去」を名前に残したように、こちらはイギリスの土地の名前を淡々と並べている。240年間ずっと同じ川沿いの工場で編んでいるブランドらしい、と言えばらしい付け方です。
コレクションとして名前が付いているもの
サブブランドはありませんが、まとまりに名前が付いているものはあります。
The Icons(ジ・アイコンズ)
定番中の定番を束ねた枠です。2026年6月には「Exceptional Since 1784」というキャンペーンで13型が打ち出されました。挙がっているのは、シーアイランドコットンポロのFINCHLEY、エクストラファインメリノのロールネックHAWLEY、エコカシミヤジャケットのROCKFORDなど。迷ったらここから、という位置づけです。
Singular(シンギュラー)
2016年に登場したユニセックスの枠です。ハニカム(蜂の巣状)の生地が特徴で、男女で分けない発想で作られています。ジョン スメドレーの中では新しい方の試みです。
The Archive(アーカイブ)
過去シーズンの品を扱う枠です。定番型が長く続くブランドなので、ここに掘り出し物が入ることがあります。
ロイヤル・ワラントの話
ジョン スメドレーは英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)を持っています。それも、現在2つです。
- 2024年5月7日|チャールズ3世国王陛下より授与
- 2026年5月|カミラ王妃陛下より授与(2つ目)
それ以前にも、2013年にエリザベス女王陛下から、2021年には当時のチャールズ皇太子殿下から授与されています。ただしロイヤル・ワラントは、授与した本人が亡くなったり、立場が変わったりすると効力を失います。女王陛下のぶんは崩御によって、皇太子時代のぶんはご本人の即位によって、それぞれ役目を終えました。いまの2つは、国王・王妃としてあらためて授与し直されたものです。
条件は、過去7年のうち5年以上、王室に継続して納めていること。申請すれば通るというものではありません。240年続く工場が、代替わりのたびに選び直されているということです。
【クリーニング師のメモ】名前では、洗い方を決められません
ここまで読むと、モデル名を覚えれば手入れの判断もできそうな気がしてきます。それはできません。
理由は、さきほどのDORSETの話がそのまま当てはまります。同じ広襟のポロという顔をしていても、ISISは綿、DORSETはウールです。
綿とウールでは、縮み方も、乾き方も、毛玉の出方も別物です。ウールは水と摩擦と熱で一度縮むと戻りません。
決め手になるのは取り扱い表示だけです。モデル名は、タグを読む前の準備運動くらいに考えてください。
ゲージの数字は、扱いの慎重さの目安になります
素材ほど決定的ではありませんが、ゲージは参考になります。
30ゲージのものは、とにかく薄い。濡れると自重で伸びます。洗ったあとにハンガーへ吊るすと、肩から下へ引っぱられて着丈が変わってしまう。平らに置いて乾かす、が基本になります。
24ゲージや7ゲージは、水を含む量そのものが多くなります。乾かすのに時間がかかる分、生乾きのにおいが出やすい。厚みがあるものほど、風を通してやる工夫が要ります。
フィットの違いは、干し方にも効いてきます
EASY FITやSWEATER SERIESのようにゆとりのある型は、そのぶん生地の面積が広く、重くなります。ゆったりした型ほど、平干しの効果が大きいと考えてください。
具体的な洗い方・干し方・毛玉の扱いは、別記事にまとめてあります。
▶ ジョン スメドレーってどんなブランド?メリノウールとシーアイランドコットンのお手入れも解説
まとめ
- ジョン スメドレーにサブブランド的な「ライン」はない。工場はリー・ミルズ1つ
- 分かれ方は素材 × ゲージ × フィット × モデル名の掛け合わせ
- 薄さの正体は30ゲージ。厚手が欲しければ24ゲージ以下を見る
- フィットは5種類。EASY FITはゆったり、SWEATER SERIESは日本別注
- モデル名はイギリスの地名らしきものが多い(公式の説明はなし)
- 同じ型でも素材が違うことがある。手入れの判断は取り扱い表示で
ロゴもなく、形も何十年も変わらない。それでも中身は、素材とゲージとフィットで細かく作り分けられています。派手さのないブランドほど、名前の中に情報が詰まっている。手元の一着のタグを見返してみると、選んだ理由が少し言葉になるかもしれません。
この記事を書いた人

ソワ|国家資格を持つ現役のクリーニング師です。クリーニング歴は30年以上になります。
業界に長くいても、知らないブランドはまだまだあります。ブランドを一つずつ勉強しながら、その成り立ちと、そこから導かれるお手入れの方法を書いています。服が「何のために作られたのか」が分かると、扱い方の答えは、たいていそこにあります。
店の名前は出していません。特定のお店に来ていただくためのブログではないからです。ご自身で手入れをされるにせよ、お近くの信頼できるお店に相談されるにせよ、その判断の材料になれば十分だと思っています。


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